ブログを Astro に移行した
Astro とは
Astro の公式サイトの説明を見てもらうのが早いかもしれない
Astro is an all-in-one web framework for buildingfast, content-focusedwebsites.
コンテンツ主体のウェブサイトを高速に作れるオールインワンウェブフレームワーク、という説明だが実際使ってみた感じ概ね合っていると思う.
特徴的なのが Astro で採用している Island Architecture と呼ばれるアーキテクチャで、UI の各コンポーネントを Island (島)のように見立ててそれぞれ独立したマイクロフロントエンドのように扱うことが出来る構成になっていること。
完全に Static な HTML とレンダリング後に Hydration (静的な HTML に後からイベントハンドラを設定)して JS により動的な操作が出来るコンポーネントを混ぜることで最終的な JS の読み込み量を減らしパフォーマンスの改善が計れるパラダイムとなっている。
また UI-agnostic で Astro 自体のコンポーネント記法とは別に Vue コンポーネントや React コンポーネント、Svelte コンポーネント等任意の UI フレームワークを Astro コンポーネント内に記述出来る。
移行前は VuePress で一部カスタマイズした Vue コンポーネントを書いたりしていたので、そのままコピーしたのだがほぼ改変などせず新しくテンプレートとして使用した AstroPaper の React コンポーネントと混合してそのまま動かしている。
なぜ Astro なのか
Scrapbox にも SPA に関するメモを書いていたのだけど 2022 年辺りから過剰な SPA への反省という文脈がある程度共通認識として開発者界隈に広がってきたように思える。
- An SPA Alternative
- Second-guessing the modern web
- State of JS 2022
- Alpine や Svelte 等非 VDOM 系軽量 UI フレームワークや、Remix, Astro など MPA アプローチをするライブラリの関心度が高くなっている. (Rendering Framework 部門では Next.js や Nuxt.js といった強豪を押さえて Astro がもっとも関心を持たれているフレームワークとなっている)
- SPA by default | Thought Works
- アーキテクチャ上の必要性やビジネス上の必要性など無く SPA を選択しまうことに警鐘を鳴らしている
個人的な肌感としてもこれは感じていてそれ以外のやり方を知らないという理由で SPA を利用し必要のない複雑性を受け入れて苦労しているのをここ数年で度々見かけてきていた。(特に Next.js や Nuxt.js の利用が多くなったあたりから)
雇用市場的にはフロントエンドエンジニアとして採用を目指そうと思うと近年だと SPA 主体の UI フレームワーク以外の選択肢が少なかったので雇用のためにそれを使いたいというのは理解は出来る。しかしソリューションとしては正しくないよねという場面も多く、そういうのを見る度内心もやもやしていた。
そのもやもやをまさにピンポイントでソリューションとして提供する Astro は現状の SPA へのアンサーとして、正しい答えを提供しているように思える。要は我々がやりたいことは特定の要素に依存しない形でのコンポーネント指向での開発&開発者体験の向上だったのだけど、いつのまにかコンポーネント指向をサポートする UI フレームワークでの SPA 開発がコンポーネント指向とセットのようにすり替えられて SPA が目的化してしまい、不必要な場面でパフォーマンスを犠牲にしてしまいユーザへの裏切りとなってしまったことへの。
Astro はその現状の問題によくフィットするソリューションとなっている。Astro 自体は薄いビルドとアーキテクチャを提供するメタフレームワーク程度の Wrapper 風な装いで(Rendering Framework と呼ばれている?) Astro コンポーネント自体は多機能すぎないのもいい。Astro コンポーネントだけでも十分 Web アプリを作ることは出来るが凝ったことをやろうと思ったら React や Vue の豊富なエコシステムを利用すればいいという割り切りも見える。JS フレームワークでありながら不必要な箇所では HTML-centric にし Zero JS を目指す方向も共感出来る。我々はもっと HTML を信じるべきだと思う。
移行
テーマ
AstroPaper という Astro のブログテーマを使っている。概ね既存のブログテーマと一緒だったのと、色々 Astro をいじる上で参考になりそうだったので使ってみた。使ってみると分かるけど Astro 自体の層はやはり薄く、ブラックボックスになるところが少ないので少し詰まってもコンポーネントのソース見れば大体分かるというのがよい。
Hosting
Netlify から Cloudflare Pages へホスティングサービスを乗り換えた。Netlify の Free プランは全てのリージョンの CDN を利用出来るというわけではなく、静的なホスティングでもややひっかかりを感じるくらいにはレスポンスの遅さを感じたため移行した。最初 Vercel でホスティングも試したけど自分のネット環境が IPoE だったせいか IPv6 に対応していない Vercel と比べて IPv6 に対応している Cloudflare Pages の方が体感早かった。Page Speed 等で試したスコアはほぼ変わらないので IPv4 環境では Vercel と Cloudflare Pages の差はほぼ感じないと思う。IPv6 環境は最近は一般家庭にも急速に普及してきているので IPv6 対応している Cloudflare Pages の方が早く感じる環境も多いだろう。
Netlify からの移行は GitHub デプロイ連携設定と DNS の向き先変更以外に特に面倒なことはなかった。元のサイトのエントリーのパスが /2022/10/21/~~
というような形式だったのを /posts/~
にリダイレクトするため _redirects
ファイルを作成しリダイレクト設定を書いた
$ cat public/_redirects | tail -n 3
/2021/12/19/_2021-12/ /posts/recently-read-books-2021-12 301
/2022/02/04/blade-prettier-plugin/ /posts/created-prettier-plugin-for-blade 301
/2022/11/23/vscode-blade-formatter-hits-2000-github-stars/ /posts/vscode-blade-formatter-hits-2000-github-stars 301
frontmatter の slug などを grep やらで抜き出して vim でこねこねしただけなのであまり時間はかからなかった。
既存 Vue 資産
移行前のブログで Vue で作っていたコンポーネント資産があったため一部そのまま使用している(プロジェクトの一覧など)。一方ベースとなる AstroPaper は React Component で実装されていたので早速 Island Architecture の目玉であるコンポーネントの混在をしている。今の所特に問題はなく動いている。
近年はどの UI フレームワークでも基本的に出来ることはほぼ変わらないので任意の UI フレームワークでのコンポーネントを混在して使える Astro の Island Architecture は実際のビジネスニーズとしても訴求点になると思う。
どの UI フレームワークも基本的にランタイムとしては出来ることにほぼ変わりはないのにそれぞれのエコシステムや既存資産に制限されてベンダーロックインのような状態になってしまうのも個人的にどうなんだ感があったのでこれもうまい落とし所だなーと思っている。
実際の仕事においては Astro をとりあえず噛ましておくことで各種 UI フレームワーク間の相互運用をしやすくしたり移行時に漸進的にマイグレーションしていくなどの用途も考えられる。入れ替わりの激しいエンジニアの確保という面でも特定の UI フレームワークにロックインされないというのは事業継続性的にも優位性があるのではないかと思う。
CMS
以前は Forestry.io を使用していたのだけど 2023/04 で Discontinued してしまうのでTinaCMSへ移行した。
TinaCMS は forestry.io の開発チームと同じチームが開発しているので forestry.io を使っていた人はほぼ同じ感覚で使えると思う。forestry.io と同様に Git ベースの CMS となっており、OSS でローカルでも使えるがクラウド版を利用してホスティングサービスに管理画面をデプロイすることも出来る。
$ npx @tinacms/cli@latest init
で初期化し Tina の Config を設定する. コンテンツの保存先ディレクトリや Frontmatter の入力項目等指定することでそのフォーマットで .md ファイルが作成される.
$ cat.tina / config.ts
import { defineConfig } from "tinacms";
// Your hosting provider likely exposes this as an environment variable
const branch = process.env.HEAD || process.env.VERCEL_GIT_COMMIT_REF || "main";
export default defineConfig({
branch,
clientId: process.env.TINA_CLIENT_ID,
token: process.env.TINA_TOKEN,
build: {
outputFolder: "admin",
publicFolder: "public",
},
media: {
tina: {
mediaRoot: "assets/img/uploads",
publicFolder: "public",
},
},
schema: {
collections: [
{
name: "post",
label: "Posts",
format: 'md',
path: "src/contents",
ui: {
filename: {
// if disabled, the editor can not edit the filename
readonly: true,
// Example of using a custom slugify function
slugify: values => {
// Values is an object containing all the values of the form.
return `${(new Date(values.datetime))?.toLocaleString('en-CA').split(',')[0]}-${values?.slug}`
},
},
},
defaultItem: () => {
return {
// When a new post is created the title field will be set to "New post"
author: 'shufo',
draft: true,
featured: false,
}
},
fields: [
{
type: "string",
name: "title",
label: "Title",
isTitle: true,
required: true,
},
{
type: "datetime",
name: "datetime",
label: "Datetime",
ui: {
timeFormat: "HH:mm"
},
required: true,
},
{
type: "string",
name: "slug",
label: "Slug",
required: true,
},
{
type: "string",
name: "author",
label: "Author",
},
{
type: "rich-text",
name: "body",
label: "Body",
isBody: true,
},
{
type: "string",
name: "tags",
label: "Tags",
list: true,
},
{
type: "boolean",
name: "draft",
label: "Draft",
required: true,
},
{
type: "boolean",
name: "featured",
label: "Featured",
required: true,
}
],
},
],
},
});
Tina の Client ID や Read Only Token などは Vercel の環境変数に設定する。
軽く TinaCMS を使ってみた感想としては forestry.io より柔軟にコンテンツ定義など出来るようになったものの、Next.js ベースになっておりややローカルで動かすには重くなった印象。
その他 Trouble Shoot
- Astro コンポーネント内でのデバッグが最初分からず
console.log
でブラウザにログが出力されないのでなぜかと思ったけど Static モードなのでビルド時にコンソールに出力されていただけだった。 -> Dev Server を起動しているセッションのログを確認 - Astro コンポーネント内での変数の画面出力
Debug
コンポーネントで可能
---
import { Debug } from "astro/components";
---
<Debug user={user} />
- Vue の @load が動作しない -> Hydration が必要で client:load 指定子をコンポーネントに指定する必要があった. (デフォルトでは静的にビルドされるためクライアントでイベントハンドリングが必要なものは必ず指定が必要)
まとめ
ブログを Astro に移行した。ブログのソースはこちら。
移行にかかったのは実質 2 日程度だったと思う。Astro コンポーネントの記法というか癖もほぼ無く、既存資産をほぼそのまま使用出来たので思ったより短時間で移行出来た。
React や Vue が登場してから約 10 年が経ち良い意味でも悪い意味でも人口に膾炙し良い側面と悪い側面もはっきり認識出来るようになって来た。Next.js や Nuxt.js は SPA としてはほぼ完成しているけど、コモディティ化し使用が簡単になるにつれ SPA の適用が適切でないケースにも安易に適用してしまい、過剰な複雑さを抱えパフォーマンス面での課題も抱えるケースなども見えるようになってきた。その中で同じような問題意識を抱えた Astro や Qwik のような HTML-first なレンダリングフレームワークが出てきたのはフロントエンドの領域では自然な流れだったように思える。
SPA は見かけ上の制作の難易度に比べて継続的な運用面はハードでありソリューションとしてはずっと適用出来る範囲は狭いと思っているのでこれからもカウンターとしての MPA でのアプローチには期待していきたい。
余談だけど HotWire や LiveView, LiveWireなど JS レス(実際は裏で動いてるけどユーザが明示的に書く必要がほぼない)で動的な画面を実現する方向性も成熟し Stable になってきているのでそちらの方向でのアプローチも期待したい。本格的な SPA を実装するほどでもないけど簡単なデータバインディングをしたりポーリングのような動作をしたい時、API インターフェースすら気にすることなくサーバでのデータ構造をそのままフロントエンドで使える体験はとてもよく、別方向での MPA と SPA を統合していく正しいアプローチだと思う。SPA のセキュリティについては徳丸さんも指摘している通り近年脆弱性が増加しており、最新の正しい知識を仕入れて実装するというのは意外と難しい。セキュアであることは近年より求められているアーキテクチャ特性であり HotWire や LiveWire といったサーバを起点としたアプローチで不必要な脆弱性を作り込むことを減らせることはこれから必要になるアプローチなんじゃないかと思ってる。